【論文公表】新種シライワアケボノソウを発表しました

リンドウ科センブリ属の新種シライワアケボノソウSwertia shiraiwamontana Myotoishi & Yaharaを記載した論文が発表されました。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjapbot/100/5/100_ID0329/_article


論文タイトル:アケボノソウに同定されてきた日本産センブリ属(リンドウ科)の1 新種
Swertia shiraiwamontana (Gentianaceae), a New Species Previously Identified as S. bimaculata in Japan


著者:夫婦石千尋¹,社川武徳¹,廣田 峻²,布施健吾³,藤広行³⁴,陶山佳久⁵,矢原徹一³
(1九州大学システム生命科学府,2福島大学共生システム理工学類,3九州オープンユニバーシティ,4九州大学総合研究博物館,5東北大学農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センター)


要旨:アケボノソウSwertia bimaculata (Sieb. & Zucc.) Hook.f. & Thoms. ex C.B.Clarke(リンドウ科)に形態的に類似した未知の分類群が日本で発見された.この分類群とアケボノソウは,我々が調査した2地点において,近接して,あるいは同所的に生育していた.本研究では,MIG-seq (Multiplexed ISSR Genotyping by sequencing) を用いて,アケボノソウと新分類群との関係を高解像度の分子系統解析および集団遺伝解析により検討した.その結果,この新分類群は,アケボノソウとは異なる独立したクレードを形成し,祖先集団に遺伝的な交流が認められないことが明らかとなった.さらに詳細な形態観察により,本分類群は,花糸の色,花冠裂片上面の蜜腺の色および形態,花冠裂片上部に見られる黒点の大きさ,ならびに開花後の花冠裂片の姿勢においてアケボノソウと区別できることが確認された.これらの結果に基づき,本研究では新分類群を新種シライワアケボノソウS. shiraiwamontana Myotoishi & Yahara として正式に記載する.


解説:アケボノソウは北海道・本州・四国・九州に広く分布し、白い花冠裂片の中央に緑黄色のまるい2個の蜜腺があり、蜜腺より外側には黒い点が散らばっているというわかりやすい特徴を持っています(図1)。

(図1)アケボノソウ(熊本県八代市産)

このユニークな特徴を持つアケボノソウは、1846年にシーボルトとツッカリーニによってOphelia bimaculata Siebold & Zucc.として発表され、1875年にはセンブリ属に移され、Swertia bimaculata (Siebold & Zucc.) Hook.f. & Thomson ex C.B.Clarkeという学名が発表されました。その後150年間、アケボノソウはユニークな特徴を持つ単一の種と考えられてきました。しかし私たちは、これまで日本でアケボノソウと同定されてきた植物の中に、2種が含まれていることを明らかにしました。
今回の論文でシライワアケボノソウS. shiraiwamontana Myotoishi & Yahara と名付けられた新種は、宮崎県白岩山の石灰岩地で2020年に発見されました(図2)。

(図2)シライワアケボノソウ(宮崎県白岩山産)

その後2021年には、熊本県八代市(五家荘)の石灰岩地で発見され、石灰岩地に特有の植物である可能性が浮上しました。さらに2024年には、三重県藤原岳の石灰岩地で発見されました。
熊本県八代市、および三重県藤原岳では、シライワアケボノソウとアケボノソウの2種がともに分布しており、三重県藤原岳では2種が混生している場所があります。しかし、混生している場所でも2種は形態的に区別できます(図3)。

アケボノソウとシライワアケボノソウは、花糸(おしべの柄の部分)の色、花冠裂片にある蜜腺の色と形、黒点の大きさ、花冠裂片の裏側の色で区別できます。
・アケボノソウの花糸はクリーム色(図3B)ですが、シライワアケボノソウの花糸は淡緑色です(図3A)。
・アケボノソウの蜜腺はより黄色が強く、円形(図3B)ですが、シライワアケボノソウの蜜腺はより緑色が強く、横長の楕円形となる傾向があります(図3A)。
・アケボノソウの花冠裂片にある黒点はすべて長さ0.5 mm未満ですが、シライワアケボノソウの花冠裂片には0.5~1 mmのより大型の黒点があります。
このほか発達途上の果実でも、2種の間に明瞭な違いがあります。アケボノソウでは、花冠裂片がぴったりと閉じて若い果実を包み込みますが、シライワアケボノソウの場合は、花冠裂片は開いたまま、もしくは軽く包み込んでいます。

(図3)アケボノソウとシライワアケボノソウの違い(Myotoishi et al. 2025より)

これら2種の遺伝的関係を決定するために、ゲノム上の遺伝的な違いを効率良く評価できるMIG-seq (Multiplexed ISSR Genotyping by sequencing)法を用いて、高精度の系統樹を描きました(図4)。

(図4) アケボノソウとシライワアケボノソウの系統関係(Myotoishi et al. 2025より)

その結果、アケボノソウの五家荘と藤原岳のサンプルは他の地域のアケボノソウのサンプルとともにひとつのクラスターを作り、シライワアケボノソウの五家荘と藤原岳のサンプルはこのクラスターとは別のクラスターにまとまりました。この結果は、アケボノソウとシライワアケボノソウが、五家荘でも藤原岳でも互いに交雑することなく、独自の系統として維持されていることを示しています。この結果から、アケボノソウとシライワアケボノソウは互いに生殖的に隔離された別の種であるという結論が支持されました。


シライワアケボノソウは、最初の発見地の白岩山では、シカの採食から植生を守るために設置された柵の中だけで見られます。柵外では、高密度化したキュウシュウジカの採食圧のために、草本植生がほぼ消失しています。五家荘や藤原岳でもシカの採食によって草本植生が減少しています。シライワアケボノソウの個体群の状態について、注意深くモニタリングする必要があります。論文で報告されたシライワアケボノソウの自生地は3か所だけですが、さらに調査を進め、シライワアケボノソウの分布を正確に把握する必要があります。


広分布種の中には、シライワアケボノソウのように未知種がふくまれている場合が他にもあるかもしれません。日本の野生植物の多様性を正確に把握するには、広分布種の分類について慎重な再検討が必要です。